磁気閉じ込め核融合
電子やイオンのように電荷をおびた粒子は,磁力線の回りをぐるぐる回りなが
ら運動する性質(サイクロトロン運動)があるので,磁場に垂直な方向にはな
かなか移動できません。この性質をつかうと,プラズマを壁から離して閉じ込
めることができます。
プラズマは磁力線方向には自由に運動できるので,磁力線の端から逃げていか
ないようにするためには磁場の配位に工夫が必要です。閉じ込め配位には大き
くわけて,直線型とトーラス型が
あります。直線型は磁力線方向の運動をさま
たげるように,磁場の強さを変化させる方法,トーラス型は磁力線をドーナツ
状にして端をなくしてしまう方法です。
磁力線に沿って磁場が強くなっていると,粒子の磁力線方向の速度がだんだん
遅くなり,やがては向きが逆転してはね返されてしまいます。この性質を用い
ると,磁力線の両端の磁場を強くしておくことによって,その間にプラズマを
閉じ込めることができます。この配位を磁気ミラー配位とよびます。この配位
では磁力線方向の速度が大きい粒子を閉じ込めることがむずかしいのが欠点で
す。
磁力線をドーナツ状にしておくと,磁力線の端がなくなるのでプラズマを閉じ
込めることができます。これをトーラス型磁場配位と呼びます。しかしただトー
ラス型にするだけでは,トーラスの外側へいくにつれて磁場が弱くなっている
ために,プラズマの大半径がだんだん広がってしまいます。これを防ぐために
は,磁力線をらせん状にしてトーラスの内側と外側の区別をなくす方法が有効
です。この磁力線をらせん状にするために,プラズマ中に電流を流す方式を内
部電流系とよび,トカマク配位がその代表です。一方,プラズマの外側にらせ
ん状のコイルを設ける方式を外部電流系とよび,ステラレータ配位がその代表
です。
核融合反応によってエネルギーを取り出すためには,超高温のプラズマを一定
時間閉じ込めておくことが必要です。加熱に要するエネルギーよりも核融合に
より発生するエネルギーが大きくなり,外部にエネルギーを取り出すことがで
きる条件は臨界プラズマ条件とよばれています:
- プラズマ密度×エネルギー閉じ込め時間 > 6 × 10^19 m^-3 s
- プラズマ温度 > 10 keV (約 1 億度)
さらにプラズマの閉じ込めがよくなると,核融合反応によって発生するエネル
ギーでプラズマが直接加熱され,外部から加熱する必要はなくなります。この
条件は自己点火条件とよばれています:
- プラズマ密度×エネルギー閉じ込め時間 > 3 × 10^20 m^-3 s
- プラズマ温度 > 10 keV (約 1 億度)
プラズマの中に蓄えられたエネルギーは,磁場を横切る拡散等によって逃げて
いきます。その特徴的な時間をエネルギー閉じ込め時間とよびます。外部から
エネルギーの補給がないとしたときに,プラズマ中のエネルギーが 1/2.7 に
減少する時間です。
磁気閉じ込め方式の中で最も研究が進んでいるのは,トカマク配位です。先進
各国で大型トカマク(JET/EC, JT-60/日本, TFTR/米国)が運転されている
他,30 台以上の中小型トカマクにより研究が進められています。日本の
JT-60トカマクはトーラスの大半径が 3 m,小半径が 0.9 m,磁束密度が 4 T,
流れる電流が 2.7 MA という大きな装置です。
現在もっとも高い閉じ込め性能が得られているのはECの JET で,
- イオン密度 = 3.7 × 10^19 m^-3
- エネルギー閉じ込め時間 = 1.1 s
- イオン温度 = 22 keV (約 2.6 億度)
が同時に達成されています。実際の実験では重水素を用いていますが,もし三
重水素と重水素を用いると入力エネルギーの 80 % に相当する核融合出力がえ
られていることになります。
ほぼ臨界条件が達成されている磁気閉じ込め核融合の次の課題は,自己点火条
件を達成することと定常運転を実現することでしょう。次の段階の装置は非常
に大規模になるので,国際協力による実験装置の建設が計画されています。そ
の装置は ITER (International Thermonuclear Experimental Reactor :
国際熱核融合実験炉)と呼ばれ,EC,米国,日本,ロシアの4パーティが協
力して概念設計が進められました。引き続いて工学設計が進められています.
Atsushi FUKUYAMA / fukuyama@nucleng.kyoto-u.ac.jp