プラズマとは?
温度が上昇すると,物質は固体から液体に,液体から気体にと状態が変化しま
す.気体の温度が上昇すると気体の分子は解離して原子になり,さらに温度が
上昇すると原子核のまわりを回っていた電子が原子から離れて,正イオンと電
子に分かれます.この現象は電離とよばれています.そして電離によって生じ
た荷電粒子を含む気体をプラズマとよびます.
自然界には,地球のエネルギーの源である太陽,それから吹き出す太陽風,地
球を取り巻く電離層,極地の空を彩るオーロラ,真夏の積乱雲から走る稲妻等
,様々な形のプラズマが存在しています.また夜空にちりばめられた数々の恒星に加
えて,星と星の間の空間にも希薄なプラズマがひろがっており,宇宙を構成す
る物質の 99\% 以上がプラズマであるといわれています.
一方,人間の手によって生み出されたプラズマは,放電現象として,蛍光灯を
はじめとする照明器具や,溶接,エッチング,薄膜形成等の加工技術に広く利
用されています.さらには,核融合反応によるエネルギー生成の実現を目指して,
1 億度以上の超高温プラズマを保持するための研究が先進各国で進められてい
ます.
プラズマと通常の中性気体との大きな違いは,荷電粒子の間にクーロン力が働
くことです.中性気体では2つの粒子が極めて接近したときだけ,粒子間に力
が働くのに対して,クーロン力ははるかに遠方まで力をおよぼします.そのた
め,1つの粒子の運動は多くの粒子に影響をおよぼし,中性気体にはみられな
い様々な現象が現れます.
プラズマ中の荷電粒子は,原子に束縛されていた電子がエネルギーを得て電離
することによって生じたものです.そのため,粒子のもつ運動エネルギーは粒
子間に働くクーロン力のポテンシャルエネルギーよりも大きいのが普通です.
また,粒子損失がなければ,プラズマ中の電子のもつ電荷の総和と正イオ
ンのもつ電荷の総和は符号が逆で大きさは等しいので,全体としてほぼ電気的
中性です.電子ビームやイオンビームのように電気的中性条件を満たしていな
い荷電粒子系は,通常プラズマとはよばれません.
通常の気体は常温ではほとんど電離していません.もっとも身近にあるプラズ
マとしては,ほんのわずかしか電離していないのですが,けい光灯やガスの炎
があげられます.
地球上では粒子密度が高いため電離しにくのですが,高度が増すにつれて電離
する割合が増加します.これは太陽からの紫外線やX線により電離が増えるこ
とと粒子密度の減少により再結合によって中性原子に戻る機会が減ることとに
よります.そのため高度 100 km あたりで電子密度が極大となり,電離層とよ
ばれています.高度約 300 km 以上の領域は磁気圏とよばれ,さらに電離しや
すくなりますが,粒子密度が減少するため電子密度はゆるやかに減少します.
磁気圏の外側の境界は,太陽からのプラズマの流れ(太陽風)と地球磁場との
釣り合いで定まっています.太陽風には,太陽から吹き出されたエネルギーの
高い荷電粒子が含まれています.太陽風の届かない惑星間のプラズマは密度も
温度も低いのですが,その量が非常に多いため,宇宙にある物質の 99.9 % 以
上がプラズマであるといわれています.
高エネルギー荷電粒子の流れである太陽風を生み出す太陽は,それ自身完全に
電離したプラズマです.太陽の中心部では 4 つの H 原子から He を生成する
核融合反応によってエネルギーが生成されています.地球上で核融合反応によってエネルギーを生成しようとする試
みにおいても,非常に高い温度のプラズマを閉じ込める必要があり,プラズマ
の性質を調べるための実験的あるいは理論的研究が先進各国で進められていま
す.
もう一つの身近なプラズマの例は固体中の自由電子です.固体中ではイオンは
動くことができませんが,自由電子は正イオン背景中の一成分プラズマとして
振る舞うことができます.ただし粒子密度が非常に高いため,フェルミ温度が
実際の温度よりも高くなり,量子力学的な縮退効果が重要な役割を果たしてい
ます.
代表的なプラズマの電子密度と温度を下図に示します.プラズマの密度と温
度のパラメータ領域は非常に広いことがわかります.密度に至っては 25 桁の
差があるにもかかわらず,プラズマとして数多くの共通な性質をもっ
ているのは,驚くべきことです.
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