核融合とは?
2つの原子核が十分近づくと,原子核の間に働く引力(核力)が静電的な反発
力(クーロン力)に打ち勝って1つに融合し,新しい原子核が生まれることが
あります。これを核融合反応と呼びます。
重水素(D)や3重水素(T)のような軽い元素の場合には,
核融合反応によって全質量がわずかに減少し,エネルギーに変わります。
DT 反応
: 低いエネルギーで反応し,反応率も高い
DD 反応
: 反応率は低いが,高エネルギー中性子の生成が少ない
pB 反応
: 反応エネルギーは高いが,中性子が全く生成されない
海水に含まれる水素の内 0.015 % は重水素です。もし DD 反応を用いた核融
合炉が実現すると,海水 1 l 中に含まれる重水素を反応させることによって
生み出されるエネルギーはおよそ石油 76 l に相当し,ほぼ無尽蔵のエネルギー
源が実現します。DT 反応を用いる場合でも,T を生成するために必要な Li
は地上に豊富に存在するだけでなく,海水 1 l 中の Li を用いるとおよそ石
油 1 l のエネルギーを生み出します。ちなみに海水 1 l 中に含まれるウラン
は 6.4 ml のエネルギーにしか相当しません。
太陽をはじめとして,宇宙で輝いている恒星のエネルギーは核融合によって供
給されています。星の中では,粒子は重力によって長い時間閉じ込められてい
るので,反応率は低いが温度は一千万度程度でよい核融合反応(4つの水素か
ら1つのヘリウムが生成される反応)が起きていると考えられています。
燃料となる水は地球上に大量に存在しており,地中から採掘したり,発電所ま
で輸送する必要がありません。ただし DT 反応を用いる場合にはLi も燃料と
なるのでその採掘が必要ですが,その埋蔵量は多く,海水中にも含まれていま
す。
炉心は超高温ですが,蓄えられているエネルギーはわずかです。(トカマク型
核融合の場合,炉心内にある燃料はわずか 1 g 程度です。温度は1億度であっ
ても密度が低いので,エネルギー密度としては沸騰している水と変わりありま
せん)しかも温度が上がるにつれてエネルギーの逃げ方が速くなるので,温度
が上昇しつづけて暴走することはありません。
核融合反応そのものから生成される放射性物質が蓄積することはありませんが,
高エネルギーの中性子は炉壁を通り抜けて,周囲の炉構造材を放射化します。
この誘導放射能をおさえるためには炉材料を適切に選ぶ必要があります。しか
し核分裂炉のように高レベル長寿命の放射性廃棄物の問題はありません。
石油や石炭のような化石燃料で問題になっている二酸化炭素を発生しないので,
地球の温度を上昇させる温室効果を抑制できます。
核融合反応を起こすためには超高温の燃料を閉じ込めなければならないので,
装置の体積を大きくしたり,レーザーを大出力にすることが必要です。そのた
め実用化に至るまでの研究段階でも実験装置が大型化し,開発費用が巨額になっ
てしまいます。次期装置の性能を予測するために,理論的解析やシミュレーショ
ンが欠かせません。
核融合反応がおこるように原子核同士を近づけるためには,1億度以上の温度
が必要です。このような高い温度では物質はもはや中性原子からなる気体では
なく,電子とイオンに電離しています。この電離気体のことをプラズマと呼びます。プラズマ中では粒子間
に強い電磁力が働くので,さまざまな新しい現象が現れます。
核融合炉を実現するためには,超高温のプラズマを反応がおこるまで閉
じ込めておかなければなりません。普通の壁では耐えられないので工夫
が必要です。主な方式として,
があります。